俺は神戸のモザイクで 独り海を眺めてる 沈みゆく夕日の淡いパステルピンクに紺碧の濃淡が織り成す自然のア

ートに包まれながら 心地よくそれでいて夕日の最後の抵抗の中で寂し気な風が 俺の体をすり抜けてゆく

そう 俺はまた 此処に来ちまった いつも二人で周囲を気にすることなく 戯れ合ってた お前の真っ黒な長い

髪の毛が 海からの風にもて遊ばれ 俺の頬をくすぐってゆく ちょうど十年前になるか あの 日から…




「いやー神戸はいつ来てもいいなぁ」と涼が気持ちよさそうに背伸びをしながら美由紀に言った 「あぁー本当 景色

も良いし風も気持ちいぃー」と美由紀もめいいっぱい両腕を突き上げ背伸びをした そして 間髪入れずに 「涼!ねぇ!観覧車乗ろう!観覧車!」と子供のように目を輝かせて俺を誘う 「あぁ 観覧車?俺ぁいいよ お前一人で乗ってこいよ」涼は消極的だった

「もう!いつも一緒に乗って来んないんだから!何でよ!私のこと本当は嫌いなんでしょう?!」美由紀は涼の態度に不満だった 涼にしてみれば 親子ほど歳の離れた美由紀と観覧車にのるのに抵抗を感じてたし

実は高所恐怖症でもあった涼は 一緒に乗って 彼女の喜ぶ顔が見たかったが こればかりは

どうにも成らなかった


この時 涼 41歳 美由紀 20歳 「だから 違うって お前のことはちゃんと思ってるってただぁ」言葉を濁す涼に

「もう良い!一人で乗ってくるから!涼のバ~カ!」そそくさと乗り場に歩いてゆく それを追いながら「み 美由紀!」

「おい!待てよ!」追いついた涼に くるりと振り返ると 「涼 本当は 高い所が苦手なんでしょう?」

美由紀は悪戯な目をして 涼を したから覗き込む 図星の涼は「バ バカ言え!違わい!」としどろもどろに答えると 美由紀は 「へぇーやっぱり怖いんだ いい歳して 観覧車が怖いんだ 涼の弱虫ぃー弱虫ぃ」とはやし立てる

涼も段々ムキになってきて「そんな事ぁねぇ!絶対ねぇ!いい加減にしろー!」 美由紀は「やーい!やーい!」

とまだはやし立ててる ふと周りを見渡すと 周りには ほかのカップルやら家族連れが ニヤニヤ笑ってる

美由紀はそれを見ると益々悪戯な子猫みたいに 「みなさーん!この人 観覧車が怖くて」と言う途中に割って入って

来た一人の品の良さそうなお婆さんが「これこれ 娘さん お父さんを あまり困らせるもんじゃないですよ お父さん

困っていらっしゃいますよ」ニコニコしながら美由紀を諭した 「あ!ごめんなさい」流石にやり過ぎたと思い素直に

謝った「いい娘さんですね それに 真っ直ぐな綺麗な黒髪 今時珍しい」お婆さんが 涼にも話しかけてきた

「いやぁ まぁ」涼が 照れくさそうに言った お婆さんはつづけて「本当に仲の良い親子だこと 見てて 羨ましい

くらい これからも おふたり仲良くね」そう言いながら お婆さんは軽く礼をすると 立ち去っていった

涼は複雑な思いだった 親子…かぁ まぁ そう見られて当然だがなぁ そう思っていると 今まであんなに

はしゃいでいた美由紀がうつ向き加減で「涼 ごめんなさい 私 調子に乗り過ぎちゃった」「な なぁんだよ気に

すんな 今に始まったこっちゃねぇ それより 一緒に乗ってやれなくて ごめん」気がつけば二人共 うつ向き

加減で謝っていることに 何だか 妙に可笑しくなってきて 最初に涼がクスクスと肩を揺らし始めると 美由紀も

クスクスと肩を揺らし始め 終いには 二人共 大笑いしていた 涼は 歳の差なんて関係ねぇ この 囁かな

幸せが いつまでも続きますように 美由紀の笑い顔を見つめながら そう 心でつぶやくのだった



 次回に続く